「味噌舐め星人の特別」


 ユニクロ帰りに俺と味噌舐め星人とスーパーに寄った。味噌舐め星人はお菓子が大好きな子供のように、スーパーに足を踏み入れるなり味噌を探してどこかへ行ってしまった。俺は味噌舐め星人が居ないほうが買い物がスムーズに進むだろうと思ったので、あえて彼女を止める事はしなかった。味噌舐め星人が練り物コーナーの角から姿を消したのを見届けると、俺は生鮮食品がずらりと並ぶ一角で、今晩の献立を考え始めた。俺一人なら別に夕食なんてなんでもいいのだが、味噌舐め星人の事を考えると、夕食は味噌を使った一品が良いかもしれない。味噌舐め星人は味噌を舐める、腹が満たされるまで味噌を舐める。けれども味噌味の食べ物も食べないわけではないらしく、昨日と今日とで鯖の味噌にと味噌汁、味噌オムライスを食べた。そして、それらを食べた後は味噌舐めの本能は随分と治まったらしく、彼女は味噌舐めをしようとはしなかった。となれば、際限なく味噌を舐められるよりも、何か腹にたまるものを食べさせたほうが良いのかもしれない。厳密には計算していないが、二人分の食費と一日に味噌舐め星人が舐めるであろう味噌の費用を天秤にかければ、かろうじて二人分の食費のほうが安くつく感じである。それに、一日に味噌だけと言うのは、味噌舐め星人とはいえ健康に良くない。
 野菜コーナーを見渡すとまず茄子が眼に入った。茄子は味噌料理に良く合う。焼きなすにして味噌をかけて食べるのも良いし、味噌煮にしていただくのも良い、赤味噌をテンメンジャンの代わりに使って麻婆茄子というのも悪くないだろう。次に眼に入ったのは大根だった、風呂吹き大根はシンプルながらなかなか味のある料理だ嫌いじゃない。きゅうり、もろきゅうは風呂吹き大根にましてシンプルだが、小腹を満たすにはもってこいだ。次に、豆腐・練り物関係のコーナーに目をやる。豆腐は味噌汁に欠かせないほか、田楽に麻婆豆腐と、味噌との組み合わせに幅がある。元は同じなだけの事はある。こんにゃくも、味噌田楽やおでんにと、味噌に良く合う食材と言えるだろう。
 そうだ、こんにゃくにしよう。味噌田楽なら手間もかからないしヘルシーだし、なにより食い応えがある。そう思って、俺がコーナーの端に詰まれた特価品のこんにゃくに手を出したときだ。不穏な物が、いや、不穏な動きをしている者が目の端に映った。、俺はすぐさまこんにゃくから手を離すと顔をあげた。調味料のコーナーの入り口、味噌が山と積まれた辺りで、口周りを茶色に染めた美少女が嬉々とした表情で味噌を舐めていた。音を立てて俺の手に提げていた買い物籠が地に落ちた。なんとなくこんな事になるんじゃないかなという気はしないでもなかった、しないでもなかったのだ。しないながらも、もしそんな狂行に出たとしても、人目がある場所だし誰かが注意するだろうと思ったのだ。なのに、なんと言う事だろうか。そして、なんで三つも四つもこいつは味噌のパックを開けているのだろうか。味比べ、味比べなのだろうか。各社の味噌の味を比較しているのだろうか、味噌星人は。今となってはこんな所に味噌舐め星人を連れてきたことが後悔された。
 夕食は五種類の味噌おにぎりだった。案の定、味噌舐め星人はそれを喜んでくれたので、暫くの間は三食味噌おにぎりで行こうかなと思っている。