「味噌舐め星人の意匠」


 俺は味噌舐め星人とアパートを出ると、近場の商店街にやってきた。スーパーに行くぞと味噌舐め星人に嘘をついて、俺は味噌舐め星人をなんとかアパートの外に引き出すことができた。味噌舐め星人をTシャツ姿で外に出すのは忍びなかったので、俺は彼女にジーンズを穿かせて、外に出た。
 商店街は夕食の準備に訪れた主婦たちでごった返しているかと思ったが、意外と人は居なかった。そこに居るのはパチンコ屋で暇を潰しに来た中年・老人ばかりの様に俺には見えた。学生もいくらかいたような気もした。そして、主婦たちはきっとスーパーに食料品を買いに行って、こんな裏寂れたところにはこないのだろう。誰も地域に貢献しようなどという思考なんて持ち合わせて無いように俺には思えた。そんなものかなと、俺は思った。別にどうでも良い話だったし、味噌舐め星人が先ほどからそわそわと落ち着きがないことの方が遥かに気になった。味噌舐め星人は、まるで初めて都会を見る子供の様に、きょろきょろと商店街を見回しては、あれはなんですか、なにをするところなのですかという調子でことあるごとに俺に尋ねた。俺は味噌舐め星人の無垢な質問にその都度答えながら、ともするとふらっとどこかに行ってしまいそうな味噌舐め星人を手で引き目的の場所へと向かった。
 目的の場所と行ってもたいした場所ではない、そこは商店街の突き当たりにある少しお洒落な感じの服屋だった。女の子が十人居たら、八人はお洒落だねと言いそうなそんな店だった。けれども、商店街のほかのお店と同じように、あまり人は入っていないようだった。味噌舐め星人の手を引いて俺はその店に入ると店奥に待機していた店員を呼びつけて、こいつに似合いそうな服を見繕ってやってくれと味噌舐め星人を押し出した。店員はキョトンとしていたが、味噌舐め星人が味噌舐め星人であると言う事に気づいていないようだった。味噌なめ星人は見た目は黒髪長髪の可愛らしい女の子と変わらないのだ、味噌をぺろぺろと舐めるから、味噌舐め星人だと初めて分かる存在なのだ。なので、ちょっと俺の発言に店員は面食らったのかもしれない。もし店員が、黒髪長髪の美少女の招待が味噌舐め星人だと知っていたら、もう少し反応は違っていたかもしれないが、そんな事は考えるだけ無駄だった。
 暫くして味噌舐め星人は一際可愛らしくなって帰ってきた。黒いデニムのストレッチパンツは彼女の細い足を際立たせていたし、半袖のタートルネックは味噌舐め星人の平らな体のラインをくっきりと映し出していた。飾り気のない茶色のベルトと、少し汚れた感じのくすんだ白のハイヒールがなんだか色っぽかった。総合的に、味噌舐め星人は随分と美しくなったように思う。
 俺は店員に値段はと聞いた。店員は店の奥に戻って電卓を叩くと俺の前に持ってきたが、到底帰る金ではなかったので、じゃぁ結構ですと行って俺たちは店を出た。店を出て暫く歩くとユニクロがあったので、そこでさっきのコーディネイトに一番近い感じの服を買った。こんなものだなと俺は思った。
 ユニクロには様々な色のタートルネックがあったので、俺は味噌舐め星人に好きな色を選ぶように行った。すると、上下揃って味噌の茶色を選んだので、俺は黒い方がベルトの味噌色がよく映えるぞと言ってそれを変えさせた。