「味噌舐め星人の考察」


 今日は平日の早番だったので昼過ぎ頃にバイトは終わった。昼を過ぎると暇な学生がシフトに入ってきて、俺の様に専門でバイトをして居るような人間ははじき出されるのだ。それが社会的で平均的なフリーターの扱いなのかどうか、俺は詳しく知らないけれど、まぁ、それでも給料は悪くないので文句はなかった。文句があるとすればそのせいで、あの頭の悪い味噌舐め星人の居る部屋に戻らなければならないという事だったが、それはバイト先が悪いのではなく味噌舐め星人が悪いのだから、やっぱり文句は言えなかった。
 俺が家に帰ると、味噌舐め星人はTシャツの中に御椀を詰めていた。ちょうど詰めているところだった。どうやら、よほど胸の事を気にしているらしい。割と女性の事に関して寛大な、というよりもあまり興味の無い俺は、それくらいのが好きな奴も世の中には居るよと味噌舐め星人に慰めの言葉をかけてやった。だが、本人は自分の体を侮辱されたと思ったらしく、しきりに俺に謝罪を要求してきたが、流石の俺ももう彼女のそんな対応にはなれたもので、俺は味噌舐め星人を無視してスーパーで買ってきた冷凍オムライスを開封すると、皿に載せてレンジに放り込んだ。子供っぽいと思われるかもしれないが、俺はこのオムライスという料理が割りと好きだった。
 音が鳴ったら出しておけと俺は味噌舐め星人にレンジを指差して命令すると一服する為に外に出た。次の人に心地よく使っていただくために、俺の住んでるアパートは全室禁煙なのだ。俺はあまり煙草という奴は好きではないのだが、時々ふと吸いたくなった。非常に代わった煙草吸いだった、メジャーな煙草吸いではなかった。けれどもヘビーなタバコ吸いも、ライトなタバコ吸いも、煙草を吸えばやる事は同じで。俺はふかふかと煙の昇り立ったセブンスターをゆっくり吸いながら空を眺めてぼーっとするのだった。あぁ、いったいこの空のどこら辺から味噌舐め星人はやってきたのだろうかなんて、どうでも良い事ばかりが俺の脳内に浮かび上がっては霧散した。
 暫くして部屋に戻ると、味噌舐め星人がオムライスを食べていた。オムライスにはべっとりとケチャップの代わりに味噌が塗りたくられていた。八丁味噌だった、茶色いオムライスがそこにあった。俺の大切なオムライスは、茶色に染まって皿の上で半分になっていた。いや、半分以下になっていた。
 味噌舐め星人は、こんなまずいものを良く食べれますね、味噌をつけなければこんなもの半分も食べれませんよ、中のご飯を味噌で炒めるべきなのですと、訳の分からない事を俺に言った。オムライスを食われてしまったショックで俺は味噌舐め星人が何を言っているのかまったく理解できなかった。なぜ不味いのなら三分の二も食べたのかと冷徹につっこむ理性すら残っていなかった。オムライスを失った絶望に俺が打ちひしがれていると、それじゃぁ残りも私が処分しちゃっても良いですかねと、味噌舐め成人が言った。その発言に流石の俺もキレた。俺は味噌舐め星人の頭に力いっぱいげんこつを食らわすと、その手の中からオムライスを奪い取った。オムライスから味噌を除け、誤魔化すようにケチャップをめいっぱいかけた。眼に涙を浮かべ味噌舐め星人がオムライスを貪る俺を見つめていた。泣きたいのはこっちだった。