「超人Q」- 2


「あなたは、たしかタワラチナツさん。ここにワタヤミホさんの紹介でここに来てから、かれこれ三回目の訪問。そちらのかたは、たぶんはじめましての人ですね。はじめまして」
「は……。はじめまして」
 ね、だから驚くって言ったでしょう。僕が目のやり場に困って隣を向くと、さもそんなことを言いたそうな表情で、依頼人――田原千夏が僕を見上げていた。彼女は、猫が人間を見つめるような目で僕を見つめている。
 実に悪戯っぽい目だ。僕を嘲笑っているような、僕の戸惑いを誘っているような、誘い出された戸惑いを満足げに見るような、そんな目だった。この瞳はこのくらいの年齢の少女だけが持ちえる美徳だと僕はつくづく思う。
 妹もこんな目をして僕をよく見つめてきた。ふと、そう思うと、そう思ってしまうと僕はもう冷静では居られなかった。あの事件以来、僕は妹の事を思い出すと平静では居られなくなる。僕は彼女が向ける『少女の視線』に耐えられず視線を正面に移す。そしてそこには相変わらず裸の美少女が立っている。どうして良いか分からず、僕は天井を向いた。
 天井はまるでショートケーキの用に染み一つなく真っ白に塗り上げられていた。天井だけじゃない、床も壁も家具も何もかもが真っ白だった。光源は窓から入る日光だけ。南向きの位置にあるベランダとの境目に作られた大きな窓からの太陽光のみだった。しかし、差し込んだ光は白い室内を縦横無尽にに乱反射しているのか、僕にはその部屋が意外と明るいように感じられた。
「腰掛けてください。今、紅茶を入れます」
「あぁっ、そんな、お構いなく。こっちが話を聞きに来たんですから」
「お構いなどしていません、私が紅茶を飲みたいだけです。葉はダージリンですが、問題ありませんね」
 僕は彼女の言葉に少し困惑しながらも頷いた。すると、彼女は服を着るでもなく、何かで体を隠すでもなく、実に悠長かつ優雅な動きで紅茶を作り始めた。透明のポットを棚から取り出して、その中に紅茶のパックを放り込むと、白いキッチンで沸かしていた白い夜間からお湯を注ぐ。忽ち赤茶色に染まっていくお湯越しに、彼女の毛が生え揃っていない恥部が映る。たちまち視線を上にずらすと、白い肌に反して血色のよい乳首が平らな胸の上にポツリと浮かんでいるのが見えた。
「そんなに意識しなくっても結構。私には性欲という物がありません」
「え、いや、そんな、でも……」
「では嘘です。性欲はあります。気にしてください」
 どっちなのだろうか。まぁいいやと、僕は影によってかろうじて存在が理解できた、白い合成皮革の椅子に腰掛けた。すわり心地はマシュマロの様にやわらかで、アイスの様に冷ややかだった。隣にいた田原千夏も同じようにして席に座る。すると、裸の美少女がやってきて、白いカップを目の前の白いテーブルに置いた。白いカップは、白いテーブルに完全に同化して僕には姿が見えない。だが、そこに美少女が手に持ったポットから紅茶が注がれると、見る見るうちに赤茶色の円が出来上がっていのだった。
 美少女の白色の髪が揺れる。彼女の髪が最もこの部屋で白い様に思えた。