殺人野球軍 第一話


 ついに開発してしまった。たった一人で甲子園まで、いや甲子園もを勝ち抜く必殺技を……。
 マウンドに大の字で倒れる我が校のエース。その顔にめり込んだ白球が風に吹かれてぽろりと外れた。
 生まれてこの方野球に人生を捧げてきた俺は三年生となった今年、人生最後となるであろう甲子園への切符をどうしても手に入れたかった。いれたかったが、我が校の野球の実力はいかんともしがたかった。地方予選の一回戦を勝てるかどうかもいかんともしがたかった。
 それでもこんなチームが勝つ為にはどうすればいいのか、俺は必死に考えた。必死に考えた末、やはり高校野球投手力、投手さえ押さえれば後は烏合の衆どうにでもなると結論付けた。
 すなわち、投手を再起不能と書いてリタイアさせてしまえば良いのだ。そうして俺は血のにじむような努力をし、この必殺打法「顔面投手返し」を編み出したのだった。
「大丈夫か林!? すまん、手元が狂った!」
「だ、大丈夫だ野ノ原……。ナイスなピッチャー返しだ、こうやって相手の投手を潰していけば、俺たちだって甲子園を勝ち上がれるな」
 それを林が皮肉で言ったのか、俺の内心を見透かして言ったのかは分からない。俺はそれに対して何も言わずに、林の横に転がった白球を拾い上げた。林の鼻血がべっとりと染み付いたボールに、俺はこの打法の持つ狂気と、開かれた甲子園へという希望への光を見た。
「いけよ、野ノ原、甲子園に……。俺たちの夢を、叶えて……。ガクゥ」
「林……? 林、はやしーーーーッ!!」
 林は死んだ。「顔面投手返し」は、俺の「必殺打法」は、文字通り必ず殺す殺人打法だったらしい。
 俺たちは泣いた。同じ夢を追って戦ってきた友の死に泣いた。たった一人の投手の死に泣いた。
 投手が死んだので俺たちは甲子園に出られなかった。