感想 「豊臣秀長 ある補佐役の生涯」


 堺屋太一先生著。秀吉の弟さんである豊臣秀長のお話。色んな所でお噂はかねがね、なんでもどこぞの赤い弟と違って、兄にかいがいしく尽くす忠義者な弟だそうで。うん、やっぱり年上を敬うって大切だよね!! 武田も信繁が兄に忠節を尽くしたから家中が収まったし、毛利も吉川・小早川がパッとしない兄を支えたから大身になれたし、島津は四人兄弟仲良しで九州を制圧だし、やっぱり兄のほうが優れているるというのは歴史を鑑みても……。まぁ、信長は三男って話らしいんですけどね。
 まぁ兄弟話は置いておいて、ストレートに感想おば。うーん、とひとつうめき声が出るのは、小説と言うよりもなんだか教科書を読んでいるようなそんな感想を抱いたから。何度も何度も繰り返し、当時の状況説明とかが書いてあって、もう辟易。これを読めば戦国時代のしくみがわかる、実践戦国マニュアル、みたいなそんな感じで、勉強嫌いな私は読んでて何度もあくびがでたです。
 けど、文章がくどくなるのを除けば、そこは大河ドラマの原作に使われた小説、秀長秀吉のキャラクターしかり薀蓄しかりばっちり面白い。流石は教科書的なだけはある、直参とか当時の武家社会のしくみについて今ひとつ疎かったんですが、これ読んでる時は「はーそうなってんのかぁ」って感じで感心しきりでした。いやはや、よくここまで調べたものです、凄い。
 もちろんそういうところだけじゃなくストーリーも面白い。後先考えず、いや、考えるのだけど無茶をする兄秀吉。その秀吉の行動を危なっかしいと思いながらも、兄には自分しか居ないと気づき、兄の立身のため身を砕き支えることを決意する秀長。活発な兄と、慎重な弟、二人は抜群のコンビネーションで出世していく。次々に兄が呼び込む苦労を地道な努力と備えで適切にフォローする。しかし、あくまででしゃばってはいけない、彼秀長は秀吉の影、あくまで兄を立てて自分はひっそりとしなければならないのだ。
 兄より秀でた武将になってはいけない、兄より信頼のある武将になってはいけない、秀でた弟は家中に騒乱を呼ぶ種になる。故に功名を立ててはならず、意見があれども兄に逆らってはならず、ここ一番では最も困難な仕事を請け負い、家中のものが誰もやりたくない仕事を進んで引き受ける。そして、なによりもついていく支えていくと決めた主人を――兄を信じる。そんなことを誰からも強いられることなく、自分の意思で信念でやり通す貫き通す。いやはや、なんともあっぱれな生き様。秀長のように生きたいとは、私は我の強い人間なので思いませんしなれるとも思いませんけれども、けれどこういう考え方が出来る余裕を持った人間にはなりたいものです。
 現代でもさっぱり影の薄い豊臣秀長。けど、その影の薄さは彼自身が作り出したものだったのだ。作中ではそんなニュアンスで語られていますが、きっと作者の思うとおりの人物だったのでしょう。深い薀蓄とともに、作者の豊臣秀長への愛が感じられるそんな小説でした。
 ただ、その愛をもうちょっと他の奴らにも注いでくれると……。いや、それは「秀吉」に期待するとしましょう。


 というわけで、次、「ちりとてちん」。NHK朝の連続テレビ小説で、最低視聴率をマークしながらも、DVD売り上げ歴代最高を記録、さらにさらにニュース番組内において異例の「明日で最終回、お楽しみに」発言を巻き起こした話題作のノベライズ。最近はドラマを見なくなった私ですけど、これだけはしっかり見てました!! 読む前から、底抜けにオススメですがな!!