「味噌舐め星人の追憶」


 味噌舐め星人が居なくなったことに関して、俺が知っている情報は正直な所少ない。かつて彼女が俺達の前から居なくなった時もそうだったし、今回に関してもそうだ。彼女は突然、ふとした拍子に居なくなることが多い。そしてその理由を俺に語ろうともしない。尋ねなければ答えないのも仕方のない話だろうけれど、そんな彼女はどこか去る理由を濁したがっているようにも見えた。戻ってくる時にだって、なぜ帰ってきたのかも告げなかったし。
 結局の所、心が通じ合っているようで、少しだって俺達は触れ合っていなかったのだ。それに気付くのが遅かったのか早かったのか。気付くべきだったのか、知らぬふりをし続けるべきだったのか。彼女が居なくなった今、それを確かめようにもどうしようもない。せめて、それでよかったのだと信じることくらいだ。俺の心を慰めることにしかならない行為だが。
「わざわざ口に出さなくても、君は彼女の事を好いていた。愛していた。それだけに、今日君が、彼女以外の娘を連れてきたのは、僕も驚いたよ」
「しかも二人もっていう所が、何とも業深いことだわね」
 雅に関しては俺も文句はない。彼女は実際、俺とかれこれ数年に渡り同棲をしているし、肉体的な関係だって持っている。問題は、このちんちくりんの味噌舐め星人まで、一緒にされていることだ。流石に俺もこんな餓鬼に手を出すほど飢えても居ないし、多少の節操だって持ち合わせている。
 いや、この場合は倫理と言った方がしっくりくるだろうか。
「こいつはな、訳あって今俺が預かっている餓鬼だ。つっても、あれだ、祥子さんはなんとなく分かるだろう。こいつが何者なのか」
「分かるだろうって。何のことよ、って、まさか、そうなの?」
 俺は顎を縦に振った。醤油呑み星人はそれで全てを察してくれたらしく、からかう様だった目の色を真剣なものに変えて、俺と、俺の隣に座っている何も考えていなさそうな少女へと向けた。店長は、何がなんだかさっぱりという顔をしている。知らない方が幸せな話というものもある。誰も、嫁が宇宙人だなんて、そんなのは考えたくないだろう。彼に限ってそんなことで醤油のみ成人を嫌がる眺な事はしないとは思う。だが、それでも、嫌でも少しは意識する。無意味に家族関係をこじらせるのは本意ではない。
「けどおかしいわね。その娘からは、なんというか彼女と同じ感じがしないわ。普通の人と変わらないような、そんな感じがするのだけれど」
「そんなことを言われてもな。アイツは元から特殊な部分があったから」
「何が違っているのよ、勝手に貴方達で話を進めないでくれる。私の話をしているのでしょうけれど、それなら私にもわかるように話してちょうだい」
 眉間に皺を寄せると、味噌舐め星人は無言で俺達を見つめてきた。それは確かに違っているな。あの娘は、こんな風に人を睨むようなことはしなかった。もっと直情的で、可愛らしい方法で抗議してくるような奴だった。
 味噌舐め星人という奴も、結局は人それぞれということだ。醤油呑み星人が彼女に感じた違和感も、そういう所に結論は落ち着くのではないか。
 彼女が特殊なのか、あの娘が特殊なのかは、さておいて。