「味噌舐め星人の暴虐」


 くだらない行為を終えると、俺は冷蔵庫からビールと煙草を取り出し、リビングへと向かった。冷えた缶ビールの冷たい感覚と、煙草の紙ケースの吸い付くような感覚が妙に気持ちいい。ソファーに深く腰掛けると、俺はビールのプルタブを上げると一口飲んで、紙ケースの中から一本を取り出して、煙草が温かくならない内に火を点けた。湿った唇にゆっくりと煙草を添えると、冷たい煙が肺の中を満たしていく。事後の倦怠感と煙草の鋭い苦みが混ざり合う、この時だけは自分という存在を忘れて、幸せの中に溶け込める。
 今日の俺は一段と乱暴に雅を扱った。体の弱いあいつのことだから、きっと起き上がって来るまでに時間がかかるだろう。きっちりと火は止めておいた。ボヤでも起こそうものなら、痛い目を見るのは家を借りている俺だ。
 雅のうめき声が不快で俺はテレビを点けた。何の心配事もなさそうに澄ました微笑をたたえているキャスターどもが、能天気に芸能人の失敗を語らっている。趣味の悪い番組だ。すぐにチャンネルを代えたが、代えた先でもたいしてやっていることは変わらない。結局、チャンネルは朝の連続テレビ小説に落ち着いた。この歳でこんな物を見てしまうなんて、どうかしてる。
 恣意と悪意に満ちた番組を見ているよりは、ドラマはまだ幾らか楽しめたが、成功を約束されたストーリーと言うものは、俺の様な道を外した人間には少々苦々しかった。苦い、煙草よりも苦いねこのドラマは。糞くらえだ。
 俺はテーブルの上の灰皿に煙草を押し付けると、テレビの電源を落として立ち上がった。一応、キッチンに戻って雅の状態を確認してみると、彼女は虚ろな目をして冷蔵庫の前に横たわっていた。淡い色のパジャマの裾は俺が乱暴に扱ったおかげで無残にも破れ、艶めかしい白い肌が露出している。何度見ても見飽きない肌だ。また自分の中に彼女を無茶苦茶にしたいという欲求が渦巻いてくるのを何とか抑えると、俺は軽く彼女の頬を打ってみた。
 おい、いつまで寝てるんだよ。起きろ。俺は彼女の耳元でささやく、彼女はゆっくりと目だけをこちらに向けて、そして、もう一度それを床へと向けた。無視しやがった、こいつ、たかが居候の分際で。賢い彼女だが、時々こんな風に、俺の神経を逆なでることをやってくれる。その度に、俺は彼女を躾けるために酷い事をしなくてはならなかった。丁度、先ほど彼女の脅すのに使った鍋がコンロに残っていた。使うなら、これが良いだろう。
 俺は鍋の中身を確かめもせずに雅に浴びせかけた。虚ろだった雅の眼が開けられたかと思うと途端に色めいて、すぐに閉じられた。熱い、という、痛ましい声が辺りに響く。それは、熱いだろうさ。お湯を浴びせかけたのだからな。あぁっ、あぁっ、と、喘ぐ雅の髪を掴むと、俺はのしかかるようにして彼女に馬乗りになった。悪いな、ついうっかりとこぼしちまった。まぁ、てめぇが片づけとかないのが悪いよなっ。俺は手に持っていた小さい鍋で、雅の尻を叩き上げた。また、あぁっ、あぁっ、と、雅が鳴く。もう少し、品のある鳴き方はできないものかね、これだから、お嬢様と言う奴はつまらないんだ。更に力を込めて、その白い尻を殴りつける。鍋の熱のせいか、それとも俺が容赦なく打ったせいか、すぐにそこは朱色に染まってしまった。