水没ピアノ解説
どうでもいいが、Wikipediaで水没ピアノの項だけが存在しないのは、登場人物名でトリックが読者に知れるからなんだろうな。
筒井先生のロートレック荘読んだ時もそうだし、スケットダンスのスイッチの話を読んだ時もそうだったんだけど、叙述トリックて奴を俺はどうにも好きになれないみたいです。あれはどうにも読者を小ばかにしているだけにしか思えない。決定的なヒントを最後に配置する推理小説ってどうなのよ、まぁそれが推理小説なのかもしれないけれど……。推理小説なんて、いきなり乱歩賞をすっ飛ばして推理小説協会賞を獲った某作家のくらいしか最近は読んでない俺はとくにそう思うんですよ。まぁ、あの先生の推理小説にもガチムチ系美少女警官『香織(だったと思う)ちゃん』が出てくるけれど。
とりあえず、上の主張の解説を入れておかないことにはどうにもならんので、そこから。
まずは、いきなり論理が飛躍するんだけれど、亜以は実は存在しないんだ!! 全ては梢が見せていた幻覚だったよ!! な、なんだってー!!(AA略
根拠としては梢の論文がそういう物だったという事。
あれは別に彼女の頭が飛躍していたわけでもなんでもなく、ただ彼女が実演していることを書いただけだったというお話。
多分、錯覚させるために彼女は亜以を演じる必要があったのでしょう。技術の肝はその演じるテクニックで、初瀬川研究所はその技術を使って、佐奈ちゃん(ロボット+思い込み)を復活させたと。
つうか、佐藤先生はこのテーマ好きね。一作目も主人公の作り出した兄貴が裏で糸引いてて、二作目も初瀬川研究所の血を飲むとその人に見えちゃう錯覚人間が裏で糸引いてて、最後にはその技術を確立しちゃった人が出てくるんだもの。もう正気の沙汰と思えない。鏡家サーガの完結編とか言われてるけど、そりゃ完結もするわ。いや、俺の推論が正しければの話だけど。
けどいい線行ってんじゃないのかなぁ。とりあえず、梢と亜以が作中で同席するシーンはなかったわけだし、亜以が実態を伴わない存在だったとしたら、彼女が父親の書斎から消えた理由も分かる。何かしらの暗示で、家族全員は亜以という存在を認識しているのだとしたら、あの父親殺害の瞬間に亜以を意図的に呼び出すこともできたんじゃないの。で、瞬介さんに殺害を決意させる。あるいは、亜以ちゃんという存在が誤動作してしまった。それだと、梢が父の不在を問うた点も解決できるよね。ただ、その前にお兄ちゃんたちがそのことを梢に話しているけれど……。
亜以と梢の関係も気になる、亜以は基本的に梢に対して同情的だったし、梢の本音を代弁するようなキャラクターであったわけだ。キャラクター的な位置づけとして、亜以は梢の代弁者だし、彼女の精神と複雑に絡まっているキャラクターだと言える。私のあげた本をちゃんと持って行ってくれたかなぁ、のくだりはどうなのかとも思うのだけれど、梢自身が亜以という存在を無意識にやっているのだとしたら、それはそれでありえるかもしれない。いや、結構読み返してみると、この論はトンでもだな。いまさらだが。
もし、仮にそうだとすると、亜以は元木が死んだ瞬間を見ているから、梢の家族全員に対する憎悪の説明がつく。彼は、元木暴行に加わった家族全員に対して、同じような死を望んだわけだ。おそらく。彼女の反抗理由はそれだけなんだよ、だって、最後の最後ですかっとしただろ、どう考えても梢は元木の身に起きた事件を知ってる。それを見てたのは殺された奴らと、亜以だけじゃん。あとは最後の次男坊の死で気づいたのが愛、しかも「愛している」とかそういうのが非常に暗示的。亜以という存在の異常さに気づいて、彼は最後の最後で遺書に見せかけたダイイングメッセージでも残したんじゃないのだろうか。まぁ、次男のくだりは完全に俺の邪推なんだけれど。
もしそうだとして、梢 ⇒ 亜以(演じる) ⇒ 梢(亜以が演じる) ⇒ 母 ってとこかな。
実は亜以が存在していて、彼女が梢の不在を全て補っていたという論もできなくはないんだろうけれど、俺はなんというか上の気がするからそんな感じで。後は、梢不在時に、亜以が荒れてたっていうのも気になる。って、今見直すと、亜以が不在のときに元木の殺害は行われているんだよな。そうすると、上で書いた梢が元木の死を知っているっていう説明もつかなくなってくる。うーん、後で梢が知って、あの時居合わせた亜以は全員が見ていた幻覚だったということか、後から幾らでも元木に関しての情報は得られるものな。ううん、どんどんぼろが出てきた感じだ。けど、元から梢がおかしくなっていた描写はなくって、二ヵ月後からおかしくなったって言うんだから、それも考えられるのかも。
あと、お父さんが亜以ちゃんの行為を全て受け止めていたってのもあれだよね、おかしな話だよね。なんというか幻覚の亜以ちゃんと梢が演じる実体を伴った亜以ちゃんが存在して、前者に対しては基本的に全員が無抵抗を決め込むことしかできなかった、とかそういうのか。
とりあえず、初瀬川研究所での事故の後、亜以が壊れ始めたのは演者の不在、梢が壊れ始めてから亜以も付随して壊れ始めてきたのは演者が行っていたって感じだろうか? うぅん、ここらへんを整理して納得した形に説明できないと無理だよな。あとは、亜以ちゃんが比較的まともなので、梢が亜以ちゃんをどのようにして演じていたのかとかそこらへんも。
死体が六個しかなかったのは、そもそも亜以ちゃんという存在は全員が見ていた夢だったから。
過程的時系列の流れとしては、
梢 壊れる
亜以 演者の不在状態に(荒れる)
梢 家に戻る(このときは正常)
亜以 梢の登場により沈静化(演者が存在)
梢 元木についての真相に気づく、発狂(のフリ)
亜以 梢の発狂化に伴って(凶暴化)
梢 母を殺害
亜以 家族全員に死を強要し始める
梢 部屋で着々と準備を進める
亜以 存在の消失・あるいは幻覚の暴発(父の殺害に伴う、亜以という存在の消失)
梢 亜以の消失を知覚・シナリオの再構築(無意識?)
亜以 逃亡中(という設定)
梢 広明以外の家族を皆殺し
亜以 復活、梢の役&広明の母親役を演じ始める
広明 カイジ状態!! 梢の事を姉さんと呼び、母と知覚する。
梢 梢の状態の戻る(理由:亜衣のことを亜衣ちゃんと呼ぶ、亜衣は他人はさん付けで呼ぶ)
亜衣 消滅 (亜衣ちゃんなら、梢さんを演じるのは難しいよう、なんて演じていたみたいなことを言う)
って感じかなぁ?
最後に死んじゃったのは、広明ちゃんがもうどうしようもなくなったので、梢も自殺しちゃったみたいな。完全に亜以になりきらなければならない事情があって、亜以から戻った瞬間を狙って自殺を図ったとか、そんなところ? 一応、広明ちゃんのことだけは可愛がっていたみたいだから、前者かな。
あとは小ねただけど、悪意のリフレイン(七つの世界の螺旋を経て、歴史上同じような出来事が起こるような出来事を言う)としては、
星野一家による梢に対する悪意の排除(元木の殺害)
広明による壊れてしまった大切な伽耶子に対する悪意の排除(多くの悪意の殺害)
創士による壊れてしまった大切な伽耶子に対する悪意の排除(あぁお兄ちゃん)
って感じですね、そして、全て失敗に終わる、と。
どうでしょうか、佐藤先生。もしくはユヤタンファンの皆さん。
俺の考えすぎでしょうか、よろしければ誰か意見ちょうだい。
追記(3/18)
もし、梢が家族の中に存在する台本的な意識「愛」を「亜以」として顕在化したならば、
伽耶子は世に満ち満ちている自分に対する不幸「悪意」を「奴」として顕在化したことにならない?
全部、あの二人が何もかも操っていたんだよ。そうすると、実に馬鹿馬鹿しいよね。