「味噌舐め星人の等比」


 味噌舐め星人はちろりちろりとスプーンを入れて、メロンソーダの上に載せられたアイスクリームを切り崩しては、おずおずと口に運んだ。彼女の中ではアイスクリームは、白い味噌だったのでなんとか食べれた。しかし、メロンソーダはやっぱり飲むのに抵抗があるらしく、少しでもメロンソーダがアイスクリームにつくと、すぐにスプーンからそれをクリームソーダの中に戻した。おい、やめろよ汚いだろうと俺が言うと、だったら貴方が飲んでくださいよ、お兄さんが飲んでくださいよと、半べそで味噌舐め星人は言った。
 アイスクリームは別として、クリームソーダもアイスソーダも、ここ数年めっきり飲んだ覚えはない。俺はもう充分にそんな飲み物を飲むには恥かしい年頃になっていたし、コーヒーだとかお茶だとかの方が美味しく感じる年齢に達していた。まぁ、たまにコーラやサイダー、ジンジャーエールは自販機やコンビニで買って飲んだが。まぁそういうわなので、俺は随分と久しぶりにクリームソーダを飲むことになった。味噌舐め星人が飲めないというのだから仕方がない。飲めというのだからしかたがない。残してしまうのも勿体無いし、せっかく奢ってくれたミリンちゃんにもそんな事をしては悪い。もっともそのミリンちゃんは、俺が飲んだと知れば激怒するだろうが、これ幸いちょうど彼女は今、お手洗いに席を外していて居なかった。
 どうでしたか、クリームソーダは美味しかったですか、お姉ちゃんさん。ミリンちゃんはトイレから帰ってくるなり、クリームソーダの感想を味噌舐め星人に求めた。満面の笑みで味噌舐め星人に求めた。席を立って十分とかからず戻ってきて、グラスの中身がなくなっていたら、よっぽど美味しかったのだろうかと聞きたくなるのも仕方ない。と、とっても美味しかったですよ、ありがとうございます、ミーちゃん、と味噌舐め星人はぎこちない感じでミリンちゃんに返事をした。それはとてもぎこちない笑顔だったが、どうやらそれでミリンちゃんは満足したらしい。魔法少女風味ミリンちゃんは、それはよかったですと顔に喜色を滲ませて席に着くと、氷と共にグラスに満たされていた、濃い橙のオレンジジュースを、ひと息に飲み干してみせた。
 商店街のイベント会場で待機しているマネージャさんからお電話が来ました。私、そろそろお仕事に行かなくちゃなのです。なので、お兄ちゃんさんとはここでお別れです、さようなら。あぁ、さようなら。とっとと、俺の視界に入らないどこかに消えちまえよと、俺は心の中で悪態をついた。
 それで、お姉ちゃんさんはこれからお暇ですか、お暇ですよね。もし、よかったら私のお仕事を見ていきませんか。最前席はファン倶楽部の皆さん用に取ってあるから無理ですけど、スタッフ席から見ることはできますよ。まん前で私のお仕事見れますよ、どうですか来ませんか。冷徹で冷静で大人びているミリンちゃんにしては珍しく、彼女は何かを期待するような眼をして、玩具やお菓子をねだる子供のような目をして、俺の隣の味噌舐め星人を見つめてきた。味噌舐め星人はちょっと困った顔をして、一瞬俺の方を向いた。行きたいのなら勝手に行けばいいのだが、まぁ右も左も分からない味噌舐め星人には無理か。仕方ないなと、俺は味噌舐め星人の視線に頷いてみせた。